講演資料

2011年2月25日
 
成年後見制度の概要
 
弁護士 駒 田 英 隆
 

第1 基本理念

1 歴史的沿革

成年後見制度に類する制度として、2000年3月までは、禁治産、準禁治産制度が、民法に定められていました。
しかし、これを利用すると戸籍に記載されたりしたため、あまり利用されませんでした。
他方、2000年4月から介護保険制度が導入され、福祉サービスも契約によって利用することとなったため、判断能力の減退した高齢者の契約締結能力を補完する必要性が出てきました。
 
このため、民法改正により、2000年4月1日から後見・保佐・補助という新しい成年後見制度が施行されることになったのです。
この制度は、家庭裁判所が、判断能力が不十分な者には補助を、判断能力が著しく不十分な者には保佐を、判断能力を欠いた常況にある者には後見を開始し、それぞれ補助人、保佐人、後見人をつけて、その程度に従った保護をするものです。この手続きは、従来の禁治産制度に比べて手続き方法が簡易になり、戸籍への記載もなくなりました。
 
また同時に、より本人の意思を尊重する制度として、「任意後見契約に関する法律」によって、任意後見制度が創設されました。これはあらかじめ委任者本人が、信頼できる任意後見人と委任する事項を決めておき、判断能力が衰えた段階で、裁判所が任意後見監督人を選任することによって任意後見を開始する制度です。
 

2 基本的理念と行動

成年後見制度の基本理念としては、「自己決定の尊重」「残存能力の活用」「ノーマライゼーション(=高齢者や障害者などを施設に隔離せず、健常者と一緒に助け合いながら暮らしていくのが正常な社会のあり方であるとする考え方。)」があげられます。
一方で、立法趣旨としては、上記基本理念と「本人の保護」との調和にあります。
この基本理念や立法趣旨から、成年後見人等の基本的態度が導き出されます。
 
つまり、成年後見人等は、成年被後見人等(本人)の代理人として法律行為を行うことがありますが、そのとき本人の意思を尊重し、最善の利益を実現するために、その立場を代弁していくものであることをまず認識しなければいけないというのが成年後見人等の基本的態度です。
 
このことは、成年後見人等が業務を遂行するにあたっては、身上監護を目的とするものであっても、財産管理を目的とするものであっても、成年被後見人等(本人)の意思を尊重するとともに、精神や身体の状態や生活状況に配慮する必要がある旨規定した「意思尊重と身上配慮義務」(民法858条)があることからも分かります。
 
ここから導き出される成年後見人等の倫理として求められるのは、成年被後見人等(本人)の自己実現にあたり、成年後見人等としての自らの役割と立場、取るべき態度を常に自制する自己規制と自己覚知ということになると考えます。
 
つまり、成年後見人等が出過ぎてしまえば、成年後見人等の生活と権利を擁護するどころか、権利侵害になりかねません。だからといって必要なときにしっかりと支援しなければ、成年被後見人等(本人)を保護することは出来ません。このバランスが非常に難しいのです。
 
例えば、あなたが、成年後見人等に就任した時、成年被後見人等(本人)が、乗らなくなった自動車を有していたとき、その自動車をどうしますか?
その自動車が、亡くなった家族からの贈り物で、乗らなくても、そのことが、成年被後見人等(本人)の心の拠り所になっていたときは、どうですか?
自動車を所持し続けるためには、駐車場代を払って駐車場代を払わなければいけないときは、どうですか?
   
このように、答えはありません。
成年後見人等としては、常に、援助について、成年被後見人等(本人)の意思に沿い、最善の利益となっているのかについて、成年被後見人等(本人)の感情を慮っていかなければならないのです。
 

第2 後見類型

1 法定後見

法定後見制度には、補助、保佐、後見があります。
その違いは、下記の図のとおりです。
    補助開始の審判 保佐開始の審判 後見開始の審判
要件 対象者 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者
開始の手続き 申立権者 本人、配偶者、四親等内の親族、検察官等 本人、配偶者、四親等内の親族、検察官等 本人、配偶者、四親等内の親族、検察官等
同上 本人の同意 必要 不要 不要
機関の名称 本人 被補助人 被保佐人 成年被後見人
同上 保護者 補助人補助人 保佐人 成年後見人
同上 監督人 補助監督人 保佐監督人 成年後見監督人

同意権

取消権

付与の対象

申立ての範囲内で家庭裁判所が定める「特定の事項」

例えば、不動産を売買する権限など。

民法13条1項各号所定の行為。なお、日常生活に関する行為は除く。
※1参照
  +
申立ての範囲内で家庭裁判所が定める「特定の事項」
日常生活に関する行為以外の行為。
同上 付与の手続き
補助開始の審判
 +
同意権付与の審判

 

本人の同意

 

保佐開始の審判
なお、「特定の法律行為」については、同意権付与の審判も必要。
後見開始の審判
代理権 付与の対象 申立ての範囲内で家庭裁判所が定める「特定の法律行為」 申立ての範囲内で家庭裁判所が定める「特定の法律行為」 財産に関する全ての法律行為
同上 付与の手続き
補助開始の審判
 +
代理権付与の審判
 +
本人の同意
保佐開始の審判
 +
代理権付与の審判
 +
本人の同意
後見開始の審判
責務 身上配慮義務 本人の心身の状態及び生活の状況に配慮する義務 本人の心身の状態及び生活の状況に配慮する義務 本人の心身の状態及び生活の状況に配慮する義務
制度を利用した場合の資格などの制限   医師、税理士などの資格や会社役員、公務員などの地位を失う、選挙権を失うなど 医師、税理士などの資格や会社役員、公務員などの地位を失うなど 特になし
※1
元本を領収し、又は利用すること。具体的には、債務の返済を受けることなどです。
借財又は保証をすること。具体的には、借金をすることです。
不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。具体的には、不動産の売買です。
訴訟行為をすること。具体的には、裁判をすることです。
贈与、和解又は仲裁契約をすること。具体的には、他人との争いをお互いに譲歩することによって解決することです。
相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
贈与の申し込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申し込みを承諾し、又は負担付遺贈を承諾すること。
新築、改築、増築又は大修繕をすること。山林の賃貸借10年、それ以外の土地の賃貸借5年、建物の賃貸借3年、動産の賃貸借6ヶ月以上の賃貸借をすること。
 

2 任意後見

(1)上述した法定後見制度と異なる制度として、任意後見制度があります。
その違いは、法定後見制度における成年後見人等は、裁判所が選任するものであるのに対し、任意後見制度における任意後見人は、任意被後見人(=本人)が、自由に選任することが出来る点です。
 
次に、その違いが大きいのは、代理権の範囲です。法定後見制度における成年後見人等の代理権の範囲は、法定で定められていたり、裁判所の審判によって決定されたりしますが、任意後見制度における任意後見人の代理権の範囲は、任意被後見人(=本人)と任意後見人との間の契約内容によって、選択することが可能です。
 
最後に、大きな違いとしては、法定後見制度における成年後見人等に監督人等が選任されることは絶対の条件にはなっていませんが、任意後見制度における任意後見人には、任意後見監督人が選任されることが、任意後見契約の効力が生じる要件になっていますので、任意後見監督人の選任が絶対の条件になっています。
 
(2)任意後見の類型としては、移行型、即効型、将来型があると言われています。なお、これは法律による区分ではなく、その契約形態による類型です。
 
① 移行型
任意後見契約は、任意代理の委任契約(本人が自ら選んだ任意代理人に対して、本人を代理して一定の法律行為を行うことを委託する委任契約)であり、任意後見監督人が選任された時から契約の効力が発生します。
 
そこで、本人と任意後見受任者との間で、本人の判断能力低下前については、財産管理等の事務を委託する旨の委任契約を締結して財産管理等を委任し、あわせて、本人の判断能力低下後については、任意後見監督人の選任時から任意後見受任者が代理権を行使する任意後見契約を締結しておくことにより、本人の判断能力低下前の代理人がそのまま判断能力低下後の任意後見人に移行することが出来ます。
 
なお、移行型では、財産管理等の委任契約と任意後見契約の2つの契約が必要となりますが、2つの契約を1通の公正証書に記載することもできますし、判断能力低下前の委任契約については、別の契約書を作成することもできます。判断能力低下前の委任契約については、普通の私的な契約書によることもできますし、公正証書とすることも可能です。
 
② 即効型
軽度の認知症・知的障害・精神障害等の状態にある者も、契約締結の時点において、判断能力が不十分でも意思能力を有していれば、任意後見契約を締結することが可能です。
 
その上で、契約締結後直ちに任意後見受任者や本人の親族の申立てにより、家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらえれば、任意後見契約の効力を発生させることができ、契約締結当初から任意後見人による保護が受けられます。
 
このように、すでに判断能力の不十分な状態にある本人でも法定後見による保護ではなく、任意後見による保護を選択することができます。
 
このような契約締結の直後に契約の効力を発生させる型の利用形態を即効型と呼んでいます。
 
なお、即効型の場合でも、本人が任意後見契約の内容を理解していることが契約の有効性に必要なことはもちろんです。
したがって、本人が保佐制度の対象者の場合には、判断能力の著しく不十分な状態にありますから、本人の意思確認及び契約内容の審査については、特に慎重な取り扱いが必要です。
 
③ 将来型
十分な判断能力を有する本人が契約締結の時点では受任者に後見事務の委託をせず、将来自己の判断能力が低下した時点ではじめて任意後見人による保護を受けようとする契約形態です。
 
この契約形態の場合には、任意後見監督人が選任されるまでの間、本人と任意後見受任者の間には委任関係はありません。
 
そこで、将来型の場合、最も注意しなければいけないのが、本人の判断能力喪失時の把握です。本人と任意後見受任者の接触の頻度によっては、判断能力喪失時の把握することが遅れ、任意後見契約の発効時が遅きに失して持参が散逸してしまうことがあります。
将来型を選択する場合には、この点に細心の注意を払い本人との接触方法をあらかじめ決めておくのが良いと思います。
 

3 権限の限界

上述したように成年後見人等には、様々な権限が与えられています。
 
しかし、成年後見人等は、あくまでも成年被後見人等(=本人)の意思の尊重に基づいて行動しなければいけませんので、入院や施設への入所、介護、教育、リハビリなどを本人の意思に反して強制することは好ましくありません。
 
また、成年後見人等の権限の範囲外となっている事項に、一身専属事項があります。例えば、婚姻、離婚、養子縁組、認知等がこれに含まれます。これらは、本人の身上に大きな影響を与える事項であるために、本人の意思のみによってなされるべきものとされており、成年後見人等といえども権限として与えられていません。
 
また、成年後見人等が、成年被後見人等(=本人)の居住の用に供している建物やその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除、または抵当権の設定その他これに準ずる処分を行うには、家庭裁判所の許可を得なければいけません。成年被後見人等(=本人)の居住用不動産の処分には、成年被後見人等(=本人)の心身の状態及び生活の状況への十分な配慮が求められるので、成年後見人等が単独で判断することは出来ません。客観的・地中立的立場からの判断をするためにも家庭裁判所の許可が必要となるのです。
 

第3 申立方法

1 法定後見について

(1)申立人に必要な書類をもって、成年被後見人等(=本人)の住所地を管轄する家庭裁判所に、申立を行います。
    
(2)必要な書類としては、主に以下のようなものがあります。
・申立書
・診断書(成年後見用)
・申立手数料(1件につき800円の収入印紙)
・登記印紙(4000円)
・郵便切手(横浜家庭裁判所横須賀支部では、後見については2800円、保佐、補助については3800円の郵便切手が必要になります。)
・本人の戸籍謄本 など
なお、事案や財産の内容によって、必要書類の内容は変わってきます。
 
(3)申立後、裁判所の職員が、申立人、後見人候補者、本人から事情をうかがったり、本人の親族に後見人候補者についての意見を照会することがあります。
また、必要に応じて、家事審判官(裁判官)が事情をたずねること(審問)もあります。
さらに、本人の判断能力について、鑑定を行うこともあります。鑑定に際しては、申立人に、鑑定料を納めることを求められることもあります。
 
(4)上記手続き後、家庭裁判所において、後見等の開始の審判をすると同時に、最も適当と思われる人を成年後見人等に選任します。
なお、この審判に、不服がある人は、審判書を受領してから2週間以内に、不服申立て(即時抗告)の手続きを取ることができます。但し、誰を成年後見人に選任するかという家庭裁判所の判断には不服申立てをすることは出来ません。
また、後見等の開始の審判がなされますと、家庭裁判所からの嘱託によって、成年後見登記がなされます。
 

2 任意後見について

(1)公証人の作成する公正証書によって、本人と本人が自ら選んだ任意後見人との間で、任意後見契約を締結する必要があります。
なお、この公正証書には、以下のような費用が掛かります。
・公正証書作成の基本手数料(1万1000円)
・登記嘱託手数料(1400円)
・法務局に納付する印紙代(4000円)
・その他(本人に交付する正本等の用紙代、登記嘱託書郵送用の切手代など)
また、任意後見契約を締結すると公証人の嘱託によって、成年後見登記がなされます。
 
(2)本人の判断能力が低下した時点で、本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見人受任者が、任意後見監督人選任の申立てを行います。
なお、この申立に際しては、上述した法定後見に必要な書類とほぼ同様な書類を提出します。
 
(3)法定後見の場合と同様に、立後、裁判所の職員が、申立人、任意後見人受任者、本人から事情をうかがったり、必要に応じて、家事審判官(裁判官)が事情をたずねること(審問)もあります。
また、本人の判断能力について、鑑定を行うこともあります。鑑定に際しては、申立人に、鑑定料を納めることを求められることもあります。
 
(4)上記手続き後、家庭裁判所において、任意後見監督人の選任を行います。
 

第4 その他

 
以 上
 
横浜弁護士会所属 さくら横須賀法律事務所

神奈川県横須賀市米が浜通1丁目7番地2
サクマ横須賀ビル3階302